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幹部や幹部候補生を短期間でローテーションさせるといった慣行を見直し、職員の専門性を高めるといった質的な面での充実も欠かせないだろう。 金融庁の関心が、銀行の不良債権問題に集中しがちで、証券市場の監督がおろそかになっているのではないかといった指摘にも、謙虚に耳を傾けることも必要であろう。
いずれにしても、わが国の証券市場監督体制のあり方をめぐる議論は、現在の仕組みの優れた点を活かしながら、機能の強化を図るという建設的な方向で進められる必要がある。 米国SECの活動ぶりに目を奪われ、単なる「金融庁解体論」とも言うべき方向へ向かうことがあってはならないだろう。
これまで六章にわたって、わが国資本市場の現状と問題点を、その歴史的背景を踏まえつつ、様々な角度から論じてきた。 一連の記述を通じて、金融ビッグバンという歴史的な制度改革が形の上では既に完了しているにもかかわらず、主として銀行によって支えられた預金と貸出中心の金融構造が、大きく変わっていないことが明らかになったであろう。
しかしながら、触れたように、銀行を中心とする伝統的な金融構造から脱却し、証券市場、資本市場をもっと幅広く活用する金融システムへの転換を実現しなければ、バブル崩壊後、わが国の経済が陥っている長期的な低迷を打破することは容易でない。 銀行に過度に依存する金融構造の下では、経済活動に伴うリスクが銀行に集中する一方、個人をはじめとする預金者は、預金を全面的に保護されることで、そのリスクを正面から引き受けないできた。
この仕組みは、戦後復興、高度経済成長の時代には、特に問題を来すことなく機能していた。 しかし、不良債権問題の深刻化は、戦後の「先進国に追いつけ、追い越せ」というキャッチアップ型経済が終わりを告げ、先行きの不透明さ、不確実性が増す中で、銀行だけに全てのリスクを負わせることが、もはや不可能になってきたことを示している。
もちろん、銀行中心の金融システムから脱却し、市場中心の金融システムへの転換が実現したとしても、社会全体のリスクが減るわけでは決してない。 未来を正確に知ることは不可能であり、経済活動からリスクを完全に除去できることはあり得ない。

市場中心の金融システムは、単に、銀行だけでなく様々な経済主体がリスクを分担するという仕組みにすぎない。 市場中心の金融システムへの転換を実現するために何が必要であるかについては、既にこれまでの各、いくつもの論点を提示し、指摘を行ってきた。
金融・資本市場の問題に限ったことではないが、制度改革を議論する上で最も重要なことは、現状を冷静に、客観的に把握しつつ、現実的な処方菱を考えることである。 現状を客観的に把握するためには、歴史的な分析を通じた過去との比較を縦軸とし、国際的な比較分析を横軸としながら、わが国の現状を位置づけることが必要である。
本書の随所において、歴史的経緯や国際比較の叙述に力を注いできたのもそのためである。 縦と横の比較から導き出される現実的な処方菱は、わが国の位置を把握した上で、望ましい方向へほんの少し動かすだけのための地味な内容になりがちである。
目の覚めるような「抜本的な改革」や「大胆な改革」にはなりにくい。 しかし、大胆な解決策とは、性々にして、現状を正確に把握しないまま、その場の思い付きや断片的に聞きかじった知識に基づいて打ち出される実現不可能なアイデアに留まっているのではなかろうか。
本書の各章における指摘や提案は、その多くが些末で技術的な事柄に係わるもののょうに感じられたことと思う。 しかし、社会を本当に変革するために必要なのは、実現不可能な「大胆な構想」を鼓吹することではなく、一見些末であっても、確実に一歩前へ進むための修正を一つ一つ実現していくことである。
つまり、本当に重要なのは、各論であり、総論にはあまり実践的な意義はないのだが、わが国資本市場の向かうべき方向についての理解を読者と共有し、本書を締めくくる意味でも、ここでは、あえて資本市場改革に関する総論的な整理を行ってみたい。 まず、資本市場そのものからは、やや外れた問題のように思われるかもしれないが、何といっても、銀行のあり方を正常化することが必要である。
これは、もちろん、現下の重要課題となっている不良債権問題の解決を通じて銀行の健全性と銀行に対する国民の信頼を回復し、金融システムの安定化を実現すること、その上で、ペイオフ凍結解除を円滑に実施するということを意味しているが、それだけで全てではないという点に注意が必要である。 不良債権問題を解決した銀行は、再び伝統的な企業向け貸出を積極化させるのではなく、新たな業務分野に収益機会を求めていかなければならない。

それができなければ、再び不良債権の山を築いて金融システム不安を招くことにもなりかねない。 というのも、現在、わが国の企業セクターは、過剰な憤務を抱えた状態にあり、今後、一○年以上も資金余剰の状態が継続するものと予想されており、銀行が貸出を積極化させようにも、資金需要の大幅な拡大は見込めないのである。
しかも、わが国の銀行貸出は、バブル期に対GDP比で五○%程度から一○○%にまで増加した後、縮小傾向にはあるものの、米国などに比べると、依然として高水準にある(711)。 つまり、銀行の数はともかく、貸出能力という面では、明らかに「オーバー・バンキング」の状態にあり、そのために過当競争に陥っているのである。
銀行がリスクに見合った貸出金利を設定することができず、不良債権問題を速やかに解決する大胆な引当処理をするだけの収益力を発揮できない背景には、このオーバー・バンキングに由来する過当競争という現実がある。 銀行の平均的な貸出金利は、かつてのBBB格社債の利回りを相当下回る水準から、BBB格社債と同程度の水準にはなってきている(712)。
しかし、銀行の貸出残高に占める不良債権の比率が八・七%に達するという貸出ポートフォリオの実情からすれば、BBB格社債利回り並みという貸出金利が、リスクに十分に見合ったものと言えるかどうかは疑問である。 こうした状態が続く限り、企業をはじめとする資金調達者側からみれば、信用リスクに見合わない低い金利で有利な調達ができる銀行貸出に依存することこそ合理的であり、社債やCPなど市場を通じた資金調達手段の活用が広がることは考えにくい。
やや皮肉なことだが、銀行が自らの私益を追求し、利益の増大を図ることが、資本市場の拡大につながっていくのである。 次に、右に述べたことと密接に関連するが、価格メカニズムを尊重しながら、銀行貸出を流動化し、最初に審査を行った銀行だけでなく多様な主体がリスクを分かち合うことを可能にする「証券化」を拡大していくことが必要である。
マクロ的に見れば、銀行貸出が国民経済の規模に比して過大となるオーバー・バンキングが生じていると述べたが、同時に、ミクロ的には、銀行による「貸し渋り」や「貸し剥がし」に対する社会的非難が絶えないというのが現状である。 銀行による資金回収が中小企業を立ちゆかなくさせ、不況の深刻化を招いているというのである。

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